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中国は脅威かー中国の台湾侵攻の可能性 Thomas Cristensen, Posing Problems without Catching Up(International Security, Vol.25, No.4, Spring 2001, pp.5 - 40) 近年における中国の著しい経済発展を背景とする国防近代化の動きは、米国での中国人スパイ事件などと相まって米国において中国脅威論を台頭させる要因となっている。 既に米国の専門家の間では中国の経済力と軍事力の上昇が米中関係にもたらす影響について様々な議論が行われている。楽観論者は、中国は米国の対抗勢力にはならないだろうと考え、悲観論者は、中国の大国化は将来米国や日本などその同盟国にとり脅威となる可能性が高いと見る。 気鋭の中国政治・安全保障研究者の一人であるトーマス・クリステンセンMIT准教授は、本稿で紹介する論文において、中国の台湾侵攻の可能性を詳細に分析することによって、中国の脅威を現実的視点から検証しようとしている。 クリステンセンは、一定の条件が満たされれば、将来米国に対抗できる軍事力と軍事戦略をもち、米国や同盟国にとり重大な脅威となる可能性があると主張する。一定の条件とは、中国が高度経済成長を持続し、国防近代化を着実に進めるとともに、海軍力増強によって紛争地域への兵力投入能力を大幅に高めることである。 しかし、クリステンセンは、この二、三○年間にそれが現実のものとはならないだろうとする。何故なら、米政府高官も明らかにしているように米国自身もRMAによる装備のハイテク化を一層進め、また同盟国との防衛協力強化により東アジアにおける兵力投入能力をさらに向上させるからである。従って、場合によっては現在の米中間の軍事力の格差が逆に拡大することもあり得るとする。 中国政府首脳が述べているように、その戦略の目標は米国と対抗するためではなく、日本など東アジア諸国を凌ぐ軍事力によって地域の覇権を確保し、台湾問題への外国の介入を防ぐことにあることは間違いない。 以上を踏まえ、クリステンセンは、peer competitor(完全な競争相手)理論に基づいてこの点を考察することは必ずしも適当ではなく、代わりに次の三点を考慮すべきとする。 一つ目は、世界で米軍が展開している地域が広く、東アジアと他の地域でほぼ同時に起こる紛争に米軍が対処することは困難である点である。現在の米兵力は、中国が東アジアで米国の利益を脅かすために、効果的な兵力投入能力を有するかどうかを判断するに足るものではないという。 二つ目は、中国が関与する紛争の発生する地域が中国から近く、米国からは遙か遠いという「紛争のもつ地理的特性」である。確かに在日米軍は中国からは至近距離にあるが、兵力規模・構成及び日米防衛協力の度合いからいって、中国の関与する紛争にどれだけ効果的に対処できるのか疑問なしとしない。 三つ目は、軍事的優位性を維持すれば侵略を防止できるという誤った認識があることである。これまでの歴史を振り返ると、戦争は各国間の軍事力の大小関係とは無関係に、軍事的弱小国が既存の国際秩序を変えるべく引き起こすケースが少なくない。従って、強大な軍事力を保持することが紛争抑止に有効であるとの見方は適切ではないという。 続いてクリステンセンは、米国の台湾防衛の意思にもかかわらず、中国の台湾侵攻が現実に有り得るのかについて分析する。そして、中国が武力行使に踏み切る場合として、(一)中国が台湾問題などで追い詰められ、武力行使によって現状打開を図る場合、(二)武力行使によって米軍の介入阻止やこの地域からの撤退の実現が可能と判断した場合、(三)米国が他の地域での紛争のために、中国の軍事行動に対処できないと判断する場合、(四)中国が米国及び日本など同盟国との間の防衛協力関係の弱体化に成功した場合の四つを挙げる。 続いて、クリステンセンは中国がこの数年間に取りうる台湾に関する軍事戦略の姿を予測する。中国の台湾政策の目的は台湾の独立阻止と「一つの中国」の堅持にあり、台湾が独立宣言をしないよう海上封鎖などによって台湾に圧力をかけ、それでも台湾が独立の動きを見せた時に初めて侵攻に踏み切ると予測する。 最後に、中国の台湾侵攻を防ぐために米国が取るべき軍事・外交戦略について論ずる。クリステンセンは、中国が台湾独立阻止のために軍事行動を開始すれば、いかに米軍兵力が中国のそれより勝っていたとしても、米国が中国の軍事行動を直ちに中止に追い込むことは困難であると見る。その上で、米国は中国当局に対し、台湾の発する独立宣言への不支持を明確に伝えるべきと述べる。 また中国の台湾侵攻に対処するためには、中国本土のミサイル基地等の攻撃より、TMD(弾道ミサイル防衛)システムの台湾配備により中国軍のミサイル攻撃に効果的に対処する方が有効であろうと見る。また、台湾海峡やその周辺海域での掃海を日本に頼ったり、日本の自衛隊が米軍の作戦行動への協力を拒否する事態になれば、米軍が効果的に作戦を遂行できなくなると述べる。 さらに、台湾軍自身が中国軍の初期攻撃に耐えられるよう一定の防御的兵器システムの台湾への売却を進めるとともに、効果的な台湾防衛の方法を米台間で十分検討する必要があると指摘する。さらに、もし中国が現実に台湾を侵攻した場合、米国はいかなる人的物的損失を被ろうともその圧倒的な軍事力によって最後まで台湾を防衛する意思のあることを中国当局に示すことを説く。 このように、本論文は中国の台湾侵攻という日本に重大な影響を与えるおそれのある具体的なシナリオを取り上げ、米、中、台湾という三つのアクターの政治、軍事及び政府の意図など広範囲の視点から考察し、中国の脅威がバーチャルではなくリアリティをもつものとして認識されなければならないことを明確に示している点、日本の外交、安全保障の政策、研究に関わる者にとって興味深い論文であると言えよう。 |
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