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アメリカの「中台問題」へのアプローチ−「民主化」対「安保」− (慶應義塾大学グローバル・セキュリティ・リサーチセンターへの委託研究報告書「危機管理分析手法に関する調査ー台湾危機を事例としてー」より抜粋) 第一節:「一つの中国」に関するアメリカの態度−陳水扁政権登場まで (1)冷戦時代の前提 冷戦が終結するまで、台湾の政治的地位をめぐる紛争は米中関係にとってそれほど重要なテーマではなかった。同様の視角は、共和党のレーガン政権が発足した後も継続している。「一つの中国」の基本姿勢としながらも台湾との非公式関係を継続するアメリカの政策は、台湾海峡の安全に関して、中台双方が「現状維持」のまま推移することを目指していたと言える。 (2)冷戦の終結とブッシュ大統領の台湾政策 アメリカの政策は、1980年代末から90年代初頭にかけて変更を余儀なくされる。これには、国際政治全体、台湾内政治、中国政治という全く別個の三つの要因が存在した。 第一は、冷戦の終結によって、「カード」としての中国の戦略的意義も減少することとなったことである。第二は、台湾の政治に関するファクターに関して、李登輝の台湾総統就任が大きな影響を後々にわたって与えたことである。第三は、中国の国内政治が、アメリカの台湾政策に影響を与えた点に関してである。 (3)クリントン政権−台湾の「民主化」と、対中「関与」政策 クリントン政権は発足直後から「経済」と「人権」を意図的に対立させ、中国国内の民主化と人権状況の改善を訴えていた。しかし、何よりもアメリカ経済の回復を至上命題として発足したクリントン政権は、1993年5月の時点で翌年の最恵国待遇の無条件延長を打ち出し、ブッシュ大統領と同様の「関与」政策を基盤とする政策を発表したのである。 アメリカの『戦略構想』の中では、中国がアメリカに替わって覇権を争奪するシナリオに留意し、アメリカが現在、東アジア地域から得ている経済的利益を損なうことのないようにしなければならないことが指摘されている。このような大陸重視の政策が公表された結果、台湾に関しては、その民主化を讃える台湾ロビーが活動しやすい状況を形成するに至った。その結果としてもたらされたのが、米台間の高官の接触、台湾の国連加盟を支持する決議の採択である。 このような台湾寄りの政策は、1995年の李登輝のアメリカ訪問によって頂点に達する。これを受けて中国は大規模なアメリカ批判を繰り返した。中国の批判の対象は次第にアメリカから台湾当局に矛先を向け、1995年末には台湾沖合におけるミサイル発射訓練を行ったのである。1996年3月の台湾海峡危機は、大陸中国が、当時のアメリカ外交の趨勢が台湾よりも大陸寄りであると判断し、多少のミサイル演習を行ってもアメリカが介入することはないと考えた末に起きたのである。しかし、事件直後から関係改善が進行し、1996年のうちにクリントンと江沢民が相互訪問を行うことで合意し、一時期の緊張関係は収束した。そして、1998年6月、中国を訪問したクリントンは「三つのノー」を表明することとなる。以上から言えることは、アメリカの台湾政策も、台湾海峡の「安保」と台湾の「民主化」との間で大きく揺れていることである。 第二節:陳水扁政権発足とアメリカの台湾政策 クリントン大統領は、陳水扁政権の誕生に際して、台湾の民主主義の勝利を讃える演説を行った。他方、陳水扁総統も就任以来、中国を刺激するような政策を避けている。アメリカ政府としても、中国との経済相互依存関係が進展するにつれて、台湾の「民主主義」も重要だが、アジア・太平洋地域から得ている経済権益を持続させるために台湾海峡の「安全」は必要であり、その意味でも「民主主義」と「安全」を両立させようとしている。 (1)陳水扁政権の誕生と中台関係のシナリオ 実際、将来的に起こり得る中台関係のシナリオについて、中台の武力衝突、平和裡な方法による中台統一と台湾独立の二つが考えられる。まず、前者の武力衝突が選択肢として可能であるためには、軍事的合理性の観点から、相手側より自分の軍事力が優勢であるということと、政治的正当性の観点から、武力行使が国際的な支持を獲得できるかという二つの問題をクリアする必要がある。結局のところ、力の行使による台湾制圧はかなりの程度難しく、中国が内政不干渉原理の下に台湾に攻め込むことは当面の間、考えられない。 次に、政治的正当性に関しては、冷戦が終焉して世界大の脅威が減少するに従って、軍事的手段を通じて国益を達成することが正当性を得にくくなっており、その意味で、武力介入のコストが大きくなっていることは事実である。急速な経済成長の過渡期にあり、軍事的に将来どのように変化していくか分からない中国政府に対し、台湾自体の生存こそが死活問題であるはずにもかかわらず、台湾は戒厳的な治安維持政策でなく、非軍事的手段による民主化移行を実現したことによって、アジアの一地域に止まらない国際的な影響力を持つこととなった。 そこで、後者の非軍事的な手段による影響力行使が重要性をもつこととなる。「戦争」が「政治」の延長であるとするならば、陳水扁政権の誕生は、「戦争」よりも「政治」や「外交」が要求される時が来ていることを意味する。しかし、このような非軍事的方法で「慎重」・「善意」に「台湾問題」を討議するという陳水扁の立場が、台湾に不利に働く要因も考えられる。また、経済面でも90年代に入って以降、台湾からの輸出市場の構成において次第に中国の占める割合が大きくなっており、台湾は中国南部地域(香港を含む)との貿易相互依存体制から多くの利益を得ている。軍事的側面を除いても、台湾の大陸中国への依存が進展しているのである。 このように考えてくると、非軍事的状況における台湾の対中影響力は、それほど強力ではない「一つの中国」と「台湾独立」との中間点を採る陳水扁の外交は、中国が対話に応じる限りにおいて有効であり、そうでない場合、現状維持以外の何物でもなくなる。本省人が次第に政治的な力を持ち始め、台湾全体としては、独立とまでは行かなくとも、大陸とは別物という意識が定着しつつあるにもかかわらず、中国代表権は北京が持っているため、国際社会での影響力は必然的に小さくなってしまう。台湾の民主化移行は、中国からの軍事侵攻をくい止める影響力はあっても、非軍事的な中台交渉を開始するまでの影響力は持たない。北京にとってみれば、中台対話が始まることは「一つの中国」原理を崩したことになるし、対話が始まらない状態は、それを貫徹していることを意味するのである。 (2)今後のアメリカの台湾政策 では、「台湾問題」への対処法として、アメリカ政府は、どのような政策を行っており、また、どのような選択肢を有しているのだろうか。 *行政府(国務省・国防省・商務省) 国務省の観点から言えば、政府間関係はあくまでも「一つの中国」を原則として行われており、その延長として台湾海峡の「安全」を確保する程度のことしかいえず、また、「民主化」の進展も、アメリカの建国の理念に照らした一般論の延長として台湾が述べられている。もっとも、国防省がアジア・太平洋地域の安全保障の観点から、台湾海峡の安全が当該地域全体の安定に寄与し、中台関係の安定こそが重要であると論じる時、台湾問題はアメリカ外交政策の目指すべき目標となる。このような発想には、「民主化」と「安保」が時に対立し、前者が後者の撹乱要因となったり、後者が前者を圧迫することがあるといったような要素は包含されておらず、「民主化」も「安保」も双方ともに実現されることが望まれていると言える。 *議会 民主党と共和党とが拮抗している現在の議会では、親中国・親台湾に関する姿勢が明確に出ることは決して多くない。しかし、行政府が政府間関係を重視せざるを得ないために、台湾からの圧力は概して議会において現れることとなる。1996年7月にアメリカ議会の中に設置された「国益委員会」が出した報告書の中では、台湾海峡の安定が「極めて重要な利益」として位置づけられており、中国の将来における動向とアメリカの国益との関連が明確に示されていた。しかし共和、民主両政党の綱領を見る限り、中国・台湾に関する記述はそれほど多くはない。今後、クリントン政権期に行ってきた「一つの中国」を基調としながらも、台湾海峡の「安全」と「民主化」を支援する政策が継続されよう。 *在台湾米国研究所 公的には外交関係を有しない台湾において、アメリカを代表する機関であるが、実際にはアメリカ議会へのロビー活動の窓口的役割がその機能のほとんどを占めている。2000年5月、陳水扁政権が発足した直後、同研究所のレイモンド・バーガード(Raymond F. Burghardt)会長が、台湾における新しいリーダーと民主主義の成熟を讃えながらも、アメリカの役割を中台関係における「調停者(mediator)」でないことを強調し、当事者間の紛争に巻き込まれないように留意したことは注目に値する。中国に対して「静観政策(”wait and see” approach)」を要請し、いかなる場合でも両岸関係が武力の威嚇や行使によって解決されてはならないことが強調されている。 むすび アメリカの「中台問題」へのアプローチは、台湾の民主化だけでなく、冷戦の終結という国際政治全体の動きや、中国の経済成長といった外部要因によって大きく左右されている。台湾の「民主化」は、アメリカ政府が長期間にわたって支えるべき事柄であるが、それが過度になりすぎると中台関係を不安定にする撹乱要因となってしまう。また「安保」も、台湾海峡の「現状維持」を促進し、「危機が何も起こらない」という意味での「安保」の達成という意味が考えられる一方で、中台関係を最終的に解決し、「一つの中国」か「台湾独立」かをはっきりさせ、中台問題に解決を与えるという意味での「安保」との二つの意味が存在する。台湾にとっての「民主化」は究極的には台湾の大陸からの自律性を促すことにつながり、中国にとっての「安保」は「一つの中国」を絶対的基準とする台湾死守であるとするならば、中台関係の改善はおろか、現状維持すら難しくなっていくこととなる。 その結果、アメリカ外交は、「一つの中国」を基本としながらも、両岸対話を促し、平和裡に中台関係を解決することを促し、それに中台双方が呼応する限り、アメリカにとっての台湾海峡の「安全」と、対中国・台湾への経済権益とが維持されることとなる。一方で、台湾の「民主化」を梃子として用いながら中国の「人権」状況の改善を促し、他方で、アジア・太平洋地域での経済相互依存関係を強調しながら台湾海峡の「安全」と平穏を保持しようとするアメリカの態度が、中台問題に関する最大公約数的な外交政策として、今後とも継続することとなるだろう。 |
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